節分天井・彼岸底アノマリーは有効か?日経平均過去70年超のデータを検証
株式情報 投資戦略 相場展望 日本株 2025.03.13

春が近づくと、日本株市場では節分天井・彼岸底というアノマリーがよく話題に上がるようになります。
2月の節分頃に株価が高値をつけ、3月のお彼岸に向かって下落するというこの経験則は、投資判断の目安として活用できるのでしょうか、それとも単なる迷信でしょうか?
本記事では、日経平均株価の1950年以降の超長期データをもとに、このアノマリーの実態を検証し、現代においても投資戦略として活用できるかどうかを考えていきます。
目次
なぜ節分天井・彼岸底が発生すると言われるのか?
節分天井・彼岸底とは、日本株市場で昔から言われているアノマリーで、2月の節分の頃に株価がピークを迎え、3月のお彼岸の時期に底を打つとされるものです。
では、なぜこの傾向が生じるのでしょうか?
その背景には、投資家の売買動向や市場の季節的な要因が関係していると考えられています。
ここでは、代表的な2つの理由を解説します。
理由①:機関投資家の決算対策による売り圧力
日本企業の決算期は3月末に集中しています。
そのため、機関投資家やファンドは、年度末に向けてポートフォリオのリバランスを行い、利益確定の売りを出しやすいとされています。
実際、2014年以降の投資信託や信託銀行(年金運用など)の売買データを分析すると、3月の売り越し額が大きいことが確認できます。
投資部門別株式売買動向(東証と名証の合計) 投資信託・信託銀行の合算金額
2014年~2024年の月別平均
同じく2014年以降のデータについて月別に買い越しとなった年の数を見ても、3月は、11年中3年と、かなり少ないです。
投資部門別株式売買動向(東証と名証の合計) 投資信託・信託銀行の合算金額
2014年~2024年のうち買い越しとなった回数
このように、国内の機関投資家が3月に売り圧力を強めることが、彼岸底の要因となっている可能性が高いです。
理由②:海外投資家の売買動向と税制の影響
海外投資家も、3月に日本株を売り越す傾向があります。
1月から2月にかけては、新年度の投資戦略を決めるタイミングで、海外投資家が積極的に買いを入れやすいと言われています。
しかし、3月に入ると、納税資金を確保するために株を売却する動きが強まることがあります。
アメリカでは、個人の所得税の申告・納付期限が4月15日に設定されていますので、特に、前年に大きな利益を得た投資家が、税金支払いのために保有株を売却するケースが見られます。
実際に2014年以降の海外投資家の売買データを分析すると、3月の売り越し額は9月に次いで大きくなっています。
投資部門別株式売買動向(東証と名証の合計) 海外投資家
2014年~2024年の月別平均
また、3月に海外投資家が日本株を買い越した年も2014年以降で2年だけと、かなり少なくなっています。
投資部門別株式売買動向(東証と名証の合計) 海外投資家
2014年~2024年のうち買い越しとなった回数
ただし、その後の4月については、2014年以降、コロナショックのあった2020年を除くすべての年で、海外投資家が日本株を買い越しています。
そのため4月相場は持ち直しやすく、結果として、3月後半のお彼岸の頃が日本株の底値になりやすいと考えられます。
節分天井・彼岸底は成立しているか?過去の日経平均を検証
では、本当に節分天井・彼岸底の動きになっているのか、ここからは日経平均の過去データをもとに検証していきます。
「節分天井」は1950年代に頻繁に見られた!
1950年以降の日経平均のデータをもとに、2月、3月のうち、どの日に最高値をつけたのかを調べて、その回数を集計したのが以下のグラフです。
日経平均株価 2~3月の最高値回数 1950年~2024年
グラフから、3月末に高値をつける傾向が読み取れます。
これは、高度経済成長期やバブル期、アベノミクス相場など、日本株が上昇トレンドにあった時期には、月末に高値をつける傾向があったためだと考えられます。
これだけでは検証として面白くありませんので、3月末に高値を付けたケースを除外し、3月20日までに、高値を記録した年のデータだけを抽出してみました。
日経平均株価 2~3月の最高値回数 1950年~2024年
(3月21日以降に高値をつけたケースは除く)
すると、2月上旬から中旬にかけて高値をつけることが多かったと分かります。
つまり、2月上旬に高値を記録した後、2月から3月にかけては高値を更新できずにやや弱い相場が続く、節分天井のパターンが多く見られていたわけです。
アノマリーは、データにも裏付けられていると言えそうです。
しかし、2000年以降のデータだけに限定すると、この傾向は見られなくなります。
日経平均株価 2~3月の最高値回数 2000年~2024年
(3月21日以降に高値をつけたケースは除く)
詳しい理由は不明ですが、節分天井のパターンは1950年代に頻繁に見られたものの、情報伝達のスピードが向上し、株式の売買が迅速になった現代では当てはまりにくくなっているようです。
また、2000年以降のデータを見ると、3月上旬に高値をつけるケースが比較的多くなっており、これは近年の新たな傾向と言えそうです。
近年は相場が荒れると「3月のFOMCが底」になりやすい!
次に、彼岸底になる傾向が本当にあるのかを検証します。
1950年以降の日経平均のデータをもとに、2月と3月のどの日に最安値を付けたのかを調べ、その回数を集計しました。
日経平均株価 2~3月の最安値回数 1950年~2024年
この結果を見ると、2月前半に安値をつけるケースが最も多いことが確認できます。
先ほどと同様に、日本株市場が強い上昇トレンドにあった時期には2月上旬に安値をつけるケースが特に多かったと考えられます。
そこで、上昇トレンドの影響を除くために、2月10日以降に安値をつけたケースのみを抽出しました。
日経平均株価 2~3月の最安値回数 1950年~2024年
(3月10日以前に安値をつけたケースは除く)
その結果、3月の中旬以降に安値をつける割合が高くなり、彼岸底の傾向が確認できました。
さらに2000年以降のデータに絞って見ると、特に3月15日から19日頃、つまりお彼岸の前から前半にかけて安値をつける年が多くなっていることが分かります。
日経平均株価 2~3月の最安値回数 2000年~2024年
(3月10日以前に安値をつけたケースは除く)
これはアメリカのFOMCや日本のメジャーSQ、さらにはアメリカ版のメジャーSQであるクアドルプルウィッチングといったイベントの影響で、3月中旬に株式市場が激しく動きやすいためではないかと考えられます。
実際、2000年以降のデータでは、3月中旬に最安値をつけた7年のうち4年でFOMCの前後の日に安値を記録しています。
ちなみに、2003年3月はITバブル崩壊後の調整が終盤を迎えた時期、2008年3月はベア・スターンズの経営危機が顕在化し、リーマン・ショックへとつながる局面でした。
2011年3月は東日本大震災、2020年3月はコロナショックの発生時期でもあります。
市場が悲観的なムードに傾いている際には、FOMCを通じた金融政策の示唆が株価の底打ちと回復の契機となるケースが多いことがわかります。
節分天井・彼岸底の傾向は過去に見られた!
今回の検証結果をもとに、日経平均の2月~3月の値動きから以下の3つの傾向が確認されました。
①2月上旬に安値をつけ、3月下旬に高値をつけるケースが最も多い
→ 背景には、日経平均が長期的な上昇トレンドを形成してきたことがあるとみられます。
②上昇トレンドの影響を除くと、2月上旬に高値をつけ、その後3月下旬に安値をつける「節分天井・彼岸底」のパターンが多かったことが確認できる。
③2000年以降はアノマリーの変化が見られ、2月下旬~3月上旬に高値をつけるケースや、3月中旬頃に安値をつけるケースが増えている。
→ FOMCやメジャーSQなどの市場イベントが、彼岸底の形成に影響を与えている可能性があります。
節分天井・彼岸底の検証結果を生かして戦略を立てるなら?
これらのデータを活用することで、以下のような取引戦略を考えることができます。
2月上旬から相場が順調に上昇した場合…
2月上旬から順調に株価が上昇した場合は、2月下旬~3月上旬に高値をつける可能性が高いため、利益確定のタイミングを意識するのが有効です。
特に、日経平均が明確な上昇トレンドではなく、レンジ相場を形成している場合は、2月下旬から3月上旬が適切な利食いのタイミングとなりやすいでしょう。
2月の相場が弱かった場合…
もし2月に相場が下落した場合、3月中旬のFOMC前後まで波乱含みの展開が続く可能性があります。
そして、3月後半にかけては、配当・優待の権利確定が近づくことや、海外投資家の買い戻しが入りやすくなることから、押し目買いを検討するタイミングとなる可能性があります。
過去のデータからも、FOMCを通過すると株価が持ち直すケースが多いため、3月中旬の安値を意識した投資戦略が有効です。
いずれにせよ、単純に2月上旬に売り、3月下旬に買い戻すというのではなく、その年の株価の動きを考慮した上で、過去の傾向と照らし合わせて戦略を立てることが重要になると思います。
株式情報 投資戦略 相場展望 日本株 2025.03.13

この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 アナリスト
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)日本投資機構株式会社 投資戦略部 主任
証券アナリスト(CMA)
テクニカルアナリスト(CMTA®)
国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。
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