エヌビディアの株価急落は、AIバブル崩壊の合図?売られた理由と今後の注目ポイント
株式情報 世界情勢 相場展望 米国株 2025.03.12

エヌビディアの株価が、2025年1月期第4四半期の決算発表(2025年2月26日)以降に、急落しています。
同社が発表した第4四半期のEPSは市場予想の$0.84を上回る$0.89となり、次四半期の売上高見通しも市場予想を上回りました。
市場予想を上回る好決算を発表したのにも関わらず、株価が下落したのは何故でしょうか?
本記事では、これまでのエヌビディアの株価や業績推移を振り返った上で、現在の懸念材料を分析し、AIバブルの行方について考えます。
目次
業績は好調も徐々に市場予想とのギャップは縮小
エヌビディアは、2022年11月30日のChatGPTリリースをきっかけに、AIブームの中心企業として急成長してきました。
週足チャートを見ても、この頃を底に、株価が上昇基調に転じています。
【NVDA】エヌビディア 週足チャート(2021年9月7日~2025年3月2日)
AI関連需要の爆発的な増加を受け、同社のGPUはデータセンターやAI開発企業にとって不可欠な存在となったのです。
需要の増加は業績にもしっかりと反映されました。
以下は、エヌビディアのEPSの推移を示したグラフで、青い棒グラフが実績EPS、赤い棒グラフが市場予想EPSを示しています。
実績が予想をどれだけ上回ったかは、緑色の折れ線グラフで示しました。
ゲーミング需要の減速で、2022年には落ち込んでいたEPSが、ChatGPTが普及し始めた2023年前半に急回復しています。
この頃には、実績EPSが予想EPSを大きく上回るサプライズ決算の発表が増え、株価もそれに呼応するように急騰を続けました。
決算発表で示された次四半期における売上高の見通しについても、同様のグラフを作成しました。
会社が発表した売上高の見通しを青い棒グラフで、市場で予想されていた売上高の見通しを、赤い棒グラフで示しています。
売上高の見通しについても、2023年前半に、市場予想を大幅に上回る内容が会社から発表され続けています。
しかし、2024年に入ると、会社が予想する売上高の見通しが市場予想を上振れる幅が1桁台にとどまるようになってしまいました。
市場予想を上回ってはいるものの、かつてのようなインパクトがなくなったことで、「悪くはないが、株価を押し上げるほどの決算ではない」と評価されることが増えていきます。
結果として、2024年後半以降、エヌビディア株の上昇ペースは鈍化していきました。
【NVDA】エヌビディア 週足チャート(2021年9月7日~2025年3月2日)
改めて、これまでの決算内容と株価の反応を表にまとめました。
2022年11月のChatGPTのリリース以降、2024年前半までは、2桁もしくは1桁台後半のEPSの市場予想上振れが続き、株価のポジティブな反応も目立っていました。
しかし、特に2024年夏頃からは、売上高見通しの市場予想の上振れ幅が2%前後にとどまるようになっています。
業績推移はITバブル時のマイクロソフトと酷似?
こうしたエヌビディアの業績推移は、2000年3月にITバブル時のピークをつけた頃のマイクロソフトと酷似しています。
以下は、マイクロソフトの四半期ごとのEPSの推移を示したグラフで、青い棒線が実績EPS、赤い棒線が予想EPSの値です。
これを見ると、1999年の後半頃から、EPSの市場予想上振れ幅が縮小し、5%に満たなくなったことが分かります。
株価は、1990年12月末まで上昇を続けましたが、業績の伸び悩みを受けて高値を更新できなくなり、結局、天井を形成してしまいました。
【MSFT】マイクロソフト 週足チャート(1998年1月12日~2001年2月12日)
さらに、当時マイクロソフトから発表されていた業績見通しから要点を抽出し、決算発表後の株価の反応とともにまとめました。
1999年末頃からは、企業向けのPC需要減速や、マイクロソフトがWindowsの市場支配力を利用して競争を阻害したとして、独占禁止法で訴えられていたことなどが、警戒材料となっていました。
実際の業績と市場予想とのギャップが縮小している上に、企業向けの需要減速や、国による規制といった懸念材料が浮上しているのは、実は今のエヌビディアとそっくりです。
エヌビディアが決算発表後に下落した2つの理由とは?
どういうことなのか、詳しく見ていきたいと思います。
AIブームの終焉?ビッグテックの設備投資が減速
エヌビディアの成長は、アメリカのビッグテックを中心とする企業による旺盛なAI設備投資需要に支えられてきました。
特にAI設備投資に積極的な大企業、アマゾン・ドットコム、グーグル(アルファベット)、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズの設備投資額と、エヌビディアの売上高の推移を比較すると、高い連動性が見て取れます。
しかし、2025年第1四半期はビッグテック各社のAI設備投資額の伸びが失速するとみられています。
2月下旬には、「マイクロソフトが米国内で一部のデータセンターのリースを解約した」とアナリストがリポートで指摘し、市場に警戒感が広がりました。
また、ハイテク大手企業がAI投資額を増やすという報道も、一時期のようには聞かなくなっています。
過去のマイクロソフトがそうであったように、企業向け需要の減速が、エヌビディアの成長率鈍化につながる可能性が意識され始めています。
米国の対中規制強化が業績リスクに
エヌビディアの業績に影響を与えるもう一つの大きな要因は、米国政府による対中輸出規制の強化です。
2025年2月末には、「トランプ政権がエヌビディアの半導体製品について、ライセンスなしで中国に輸出できる数量と種類をさらに制限することを検討している」との報道が流れました。
また、シンガポールでは、エヌビディアの先進半導体を違法に中国へ輸出した疑いで、3人が詐欺罪で起訴される事件も発生しています。
規制をかいくぐる形で中国向け輸出が行われていた可能性があり、米国政府がさらなる規制強化に踏み切るのではないかとの懸念が市場に広がっています。
エヌビディアは中国市場でも一定のシェアを持っており、輸出規制が強化されれば業績への影響は避けられません。
市場では、こうした政治リスクがエヌビディアの成長を抑制する可能性があるとの見方が強まり、株価の下落要因の一つとなっています。
エヌビディアの失速は株式市場全体の重荷に
エヌビディアが依然として市場をリードする企業であることに変わりはありませんが、これまでのような急成長を維持できるかには不透明感が増しています。
そして、エヌビディアはAIブームを象徴してきただけに、市場全体にも及ぼす影響も大きくなっています。
エヌビディアの失速が、AI関連銘柄全体のセンチメントの悪化や米国株全体の調整の長期化につながる可能性も十分に想定されます。
エヌビディアが直面するリスクである、ビッグテックのAI設備投資の動向や、米国政府の対中輸出規制の行方が、米国株全体にも大きな影響を与えると考えられますので、注意深く先行きを見守りたいと思います。
株式情報 世界情勢 相場展望 米国株 2025.03.12

この記事を書いた人
日本投資機構株式会社 アナリスト
日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト(CMTA®)日本投資機構株式会社 投資戦略部 主任
証券アナリスト(CMA)
テクニカルアナリスト(CMTA®)
国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7000名以上が参加。Twitterのフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。
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